人生の恥は書き捨て

プログラムとかいろいろ

スタートアップと株の話

この記事は第2のドワンゴAdvent Calendarの記事です。
qiita.com


自分は2014新卒入社でドワンゴは去年末で退職しており、現在はスタートアップでエンジニアとして働いています。
ドワンゴは本当にエンジニアにとっては過ごしやすい会社で、同期や同じ部署のメンバーとは今でも仲が良いです。
昨日は元同期とWake Up, Girls !のライブとプリパラのライブに行きました。最高〜。

スタートアップと株の話

スタートアップに転職して色々勉強したのですが、おもしろいトピックとしてスタートアップと株の話というのがあります。自分が入ったスタートアップがM&Aについての会社であったこともあり、それなりに詳しくなることができました。これは、エンジニアの皆さんがスタートアップに転職したらもらう可能性のある、報酬としての株とかストックオプションの話です。

最近は資金調達の環境がよく、年収を大きく減らさなくともスタートアップに転職できる事例もあるみたいです。自分の周りでも社員5人〜20人くらいのベンチャーに行く人が何人かいました。

先日 LT Lovers という勉強会でこのテーマについて発表したのですが、なかなか反響があったので、記事として書いていきます。
ltlovers.connpass.com

対象者

すべてのエンジニア、デザイナーの人に読んでもらえればと思います。
後述しますが、株の構成というのは後からの変更が難しいため、スタートアップに入社する時点で株の知識がある方が断然よいです。
そして、スタートアップにジョインするタイミングというのは突然やってくるからです。
内容としては結構早期にスタートアップに入ったパターンを想定しています。

株とは

株は会社の所有権です。会社は株主というお金を出してくれる人のお金で事業をやって、株主にお金を返す組織です。
株主は株の持っている比率によって、会社の重要な決定をする権利を得たり、株の比率に応じた配当がもらえたりします。
また、会社が上場すると市場で取引されるようになり、流動性が生まれます。

有価証券報告書とは

有価証券報告書は上場企業が株主向けに発表する資料です。会社の業績や株について細かく載っています。
上場する会社は上場時に「新規上場申請のための有価証券報告書」というのを発表します。

ストックオプションとは

ストックオプションは将来、株を買うことのできる権利です。いつ、どんな条件で、何株を何円で、といったことが決まっています。
以下はある会社の新規上場申請のための有価証券報告書からコピーしてきたものです。
f:id:kazuhei0108:20171208173539p:plain

このように何円で何株買うことができるかというのが書いてあります。

ストックオプションで儲ける仕組み

次にどうやってストックオプションで儲けるかを説明します。
例えばあなたが以下のような条件のストックオプションを貰ったとします。

ストックオプションの条件
発行数 100株
発行価格 1万円
発行条件 上場したら

そして会社が上場して1株の値段が100万円になったとします。

f:id:kazuhei0108:20171208175712p:plain

この時、普通に株を買うと当然1株100万円かかるわけですが、ストックオプションをもらっている人は買う値段が1万円に約束されています。
よって本来1株100万円で(100万円*100株) = 1億円の価値の株を1株1万円で(1万 * 100株) = 100万円で買うことができます。
会社が上場している場合は市場に株を売ることができるので、株を買って売れば9,900万円になります。
これがストックオプションで儲ける仕組みです。

実際にストックオプションが付与されていることも先ほどの新規上場申請のための有価証券報告書から確認することができます。
これもある企業の資料を借りてきたものですが、株主の状況という部分を見ると従業員にストックオプションが発行されています。

f:id:kazuhei0108:20171211121203p:plain

この企業は今、時価総額が600億円近くあるので、0.27%付与されている従業員さんの株の時価総額は1.6億円ほどです。大きいですね。

ストックオプションで儲けるまでのフロー

儲けるまでには

  1. 権利の付与
  2. 権利の行使
  3. 株式売却

の3ステップがあります。
権利を行使して株を取得するけど、株式売却はしないということも当然できます。

株について知ることが何故重要か

エンジニアが株について知ることが重要な理由は主にこの3つだと考えています。

  1. 株はめっちゃ儲かることがある
  2. 株は後から変更できない
  3. 株については誰も教えてくれない

株はめっちゃ儲かることがある

先程のストックオプションの儲かる仕組みでも説明しましたが、株は大きく儲かる可能性があります。

f:id:kazuhei0108:20171208182528p:plain

これは資本金が1,000万円の会社で自分が100万円を出して10%株を持っている状態で、そのまま上場したイメージです。
実際は資金調達したり、ストックオプションを出したりするので、そのままということにはならないですが、もしこの会社が200億円で上場したとすれば、自分の株は20億円の価値になります。

ちなみにこのグラフの面積は金額と連動しているので、すごく大きくなるんだなということが分かります。

株は後から変更できない

これは後の「スタートアップが上場するまでの株と企業価値」の部分を見ると分かるのですが、未上場企業の株の値段はどんどん上がるので、渡した株を後から買い戻すことは困難になります。よって、株の比率を後から変更するということが難しいのです。

株については誰も教えてくれない

未上場企業の株の値段はどんどん上がっていくので、大きな株の比率を取得するのは後になればなるほど困難になります。
よって、株での利害関係がある相手は基本的に相手に株について教えることを遅らせることが妥当ということになります。
また、スタートアップ初期の場合、メンバーが誰も株についての知識を持っていないということも珍しくありません。その時は投資家に会う前にメンバー全員でしっかり知識をつけることです。なぜなら初期の投資家も株の利害関係者だからです。

スタートアップが上場するまでの株と企業価値

会社を作る

会社を作る時にはメンバーで資本金というものを出し合います。例えば社長1人その他メンバー3人の4人で起業するとして、
全員で1,000万円の資本金で起業するとします。
社長が850万円、その他のメンバーが50万円ずつ出して、合計を1,000万円とした場合、
それに応じた株をそれぞれのメンバーに分配することになります。
社長が85%の株を保持し、残りのメンバーは5%ずつ保持するということです。
この時に株を社長に集めているのは経営権の安定のためです。

f:id:kazuhei0108:20171211103056p:plain

仲間を増やす

会社を作ってからすぐデザイナーが必要だということになり、新しいメンバーを追加することにしました。
彼も他のメンバーと同じ待遇にすることに決めたので、社長が50万円分の株を彼に売ることにしました。
f:id:kazuhei0108:20171211103111p:plain

増資する

初めのプロダクトを作ることができたので、開発を進めるために、投資からお金を出してもらうことにしました。
自社の価値を2億円と見積もって5,000万円の出資を募ります。
これは第三者割当増資といって、社長の株を渡すわけではなく、新しく株を増やす形で行うことが多いです。
f:id:kazuhei0108:20171211103126p:plain

この際、新しく株を増やすことによって全体の株の量が増えているので、相対的に社長やそれぞれのメンバー持っている株の比率は低下します。
例で言うと、最初に5%の株を持っていたメンバーの株の比率はこの資金調達で4%に低下しています。

このようにスタートアップの株の値段はどんどん上がり、社長やそれぞれのメンバーが持つ株の比率は希薄化していきます。

さらに仲間を増やす

投資を受けて、プロダクト開発を加速した結果、ユーザーが定着してきました。
さらに事業規模を拡大するため仲間を増やしていきます。
この時、新しいメンバーに株を渡すことを考えると、通常の株では難しいことがわかります。
f:id:kazuhei0108:20171211103140p:plain

これが、「株は後から変更できない」ということです。

f:id:kazuhei0108:20171211103204p:plain

そこでストックオプションの出番です。

ストックオプションでは株と違って取得する時にお金を払う必要がありません。
お金を払うのは実際に株を受け取るときだからです。

f:id:kazuhei0108:20171211103746p:plain

ストックオプションは将来的には株に転換するものなので、上場時に既存の投資家の株の比率を低下させる要因になるので、手放しで歓迎されるものではありません。ストックオプションを出して採用した人が、株の比率の低下以上に株式そのものの価値を向上すると考えるからこそストックオプションが発行されます。
こういった事情から、上場時のストックオプションは10〜15%未満が良いといわれます。

上場ルート

上場することができれば、条件に沿ってストックオプションを行使して株を取得することができます。
儲ける仕組みで言ったように株を売ればお金を手に入れることもできます。

M&Aルート

M&Aされる場合、株の種類によって、お金の配分が違ってきます。ここらへんは今回の趣旨と外れるのであまり説明しませんが、株に優先度がついている優先株というのがあり、通常M&A後の財産は優先株を持っている投資家から順に分配されます。
今回重要なのはストックオプションですが、ストックオプションを持っている人への財産の分配はストックオプションの条件によります。
日本ではストックオプションの行使条件が上場後になっていることが多く、その場合はストックオプションは株にはなりません。リターンは無しということになります。後のストックオプションの制約のところで詳しく説明しますが、先日KDDIに買収されたソラコムさんは上場と関係なくストックオプションを行使できる制度を採っていたようです。その場合M&Aされてもリターンがあります。

ストックオプションの様々な制約

ストックオプションを行使して株を手に入れる際にはいろんな制約があります。これもスタートアップにジョインする時に知っていると有利になることが多いので知っておきましょう。

税制適格

これは会社側が決めるものでは無く、国の法律とかで決まっているものです。
特定の条件を満たしているかどうかによって、ストックオプションを行使する際の税金のかかり方が違います。

税制適格でない場合

税制適格出ない場合は、ストックオプションを行使したタイミングで株を受け取るとともに株が給与扱いになり課税されます。さらに株を売ったタイミングで譲渡所得として課税されます。

税制適格な場合

www.azx.co.jp

税制適格な場合は株を取得したときには課税されず、株を売ったタイミングで譲渡所得として課税されます。譲渡所得の税金は給与所得の税金よりも税率が低いです。このサイトが詳しいです。

税制適格の条件

ここに書かれています。

www.meti.go.jp

重要なところは、従業員であることと、ストックオプション付与後2年〜10年の間という当たりでしょうか。

べスティング

ストックオプションの行使を段階的に行なう制約です。
主に社員が上場後にすぐやめるのを防ぐために、段階的にストックオプションを行使できるようになっています。
3年間で100%行使できるようになる場合

f:id:kazuhei0108:20171211111333p:plain

行使条件

ストックオプションを行使できる条件です。上場後のみとなっている会社が多いとは思いますが、中にはM&Aされるときにもストックオプションを行使して株を取得できる条件もあります。行使条件とべスティングに就いての面白い記事があったので載せておきます。

ベンチャー企業のモチベーション2.0 ストック・オプションの話(2) | ベンチャー法務の部屋

ソラコムさんは最初からM&Aされることも想定に入れて制度設計していたようです。これからはスタートアップの買収も増えていくので、シリコンバレー式にこういう制度設計をする会社が増えるかもしれません。

結局どうするべき?

ここまでスタートアップと株について説明してきました。これで株についての知識を事前に持っていることが重要だという頃はなんとなく分かっていただけると思います。そして、スタートアップに入って分かってきたことがあります。それはスタートアップで何より重要な事は「その会社がでかくなるかどうか」ということです。

スタートアップに入るからには、きっと報酬以外に何らかのやりたいことがあると思います。
それは
「自分でエンジニアの組織を作ってみたい」
「経営に関与してみたい」
「世界中の人々に使われるようなサービスを作ってみたい」
など人ぞれぞれでしょう。

それらのスタートアップに入る理由は、将来的に会社がでかくなるからこそ面白くなるものです。
だから、自分がスタートアップで一番大事だと思っているのは、その会社が大きくなるかどうかだと思います。

スタートアップの報酬という面についても会社がでかくなることは何よりも大事です。
株の比率は簡単に変更できないというのは、今まで見てきたとおりですが、会社の価値自体を向上することはできます。時価総額10億円の会社の1%と時価総額1000億円の1%では文字通り桁違いです。そして、それができれば、自分だけでなく会社の人や株主を含めて全員のリターンが大きくなります。

結局どうするべきか?ということの答えは、ちゃんと交渉して、納得して報酬を決める。報酬が決まったらあとは会社自体の価値向上のために全力を尽くす。ということだと思います。

さらに詳しく知りたい場合は是非起業のファイナンスを読むことをおすすめします。
スタートアップに入る人には必読と言っても良いと思います。

http://amzn.asia/1Yo29HN